009ファンフィクション
灯の火（ほのか）
STORY　WRITTEN　BY　RYU
−こちらの作品は、りゅうさんよりいただきました−

　川辺に吹く風は夏の香気に満ちている。昼間、照りつける陽に炙られ温められた水面からたちのぼる淡い匂い、あおあおと茂る雑草が放つ生命のにおい。南から運ばれてくる夜の熱気に渦巻く季節の声に、島村ジョーはただ耳を傾けていた。
　今夜、ひとり夜道を歩いた。珍しい事だった。この時刻、彼の仲間達はめいめいに過ごしている。自分の居場所を見出している者もいれば、なじみの顔との語らいを求めてとある屋敷に集まっている者達もおり、さらにはバカンス返上で忙しく飛び回っている者も。その輪の中に、しかしジョーは立ち位置を探そうとはしていなかった。
　なぜと訊かれても困る。気まぐれ、としか言いようはなかった。ただ、もし彼の心の中を覗く事が出来たとしたら、奥底に孤独の影を探し出す事が出来たかもしれない。
　ギルモア邸を出てきた契機は、テレビのニュースだった。
　ジョーは、サイボーグというあまりにも特殊な立場にある。他の人々が寝苦しく思うこの夏の熱帯夜にもさして苦痛は感じない。暦の上ではそろそろ次の季節に移ろう頃だが、今夜も気温の上昇はとどまるところを知らないとみえ、常人であれば温度計を確認する意欲もなかなか起きないに違いなかった。が、ジョーはその気になれば体感温度をある程度は任意で変更できる。その「普通でない」能力を無意識に使った時、偶然
「今日は観測史上、最高気温を記録した」
　旨、伝える男性アナウンサーの声を耳にした。テレビの画面には、公園の噴水に涼を求める市民たち、汗だくになってインタビューに応じる初老の男性、冷たいものを母親にねだる小さな女の子、等々。夏の日常が映っていた。同時に、ジョーは
「散歩に行って来る」
　近くにいたフランソワーズへ言い、そのまま前方だけを見て玄関へ向かっていたのだった。

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