雑草を再び踏み分け、元の場所に戻ると、けっこうな人数と行き会った。カップル連れ、家族、職場の仲間、さまざまなグループが会話を交わしつつ、時折川辺に視線をやって、願い船を追っている。父親らしい男性に手を引かれた幼い男の子と、ジョーは目が合った。
「お兄ちゃんもお船を浮かべたの？」
「え？　ああ……うん」
「何お願いしたの？　僕ね、新しい自転車に上手に乗れますようにって書いたよ」
　無邪気な報告に、ジョーは微笑を誘われた。願いは何か、にはとくに答えず
「きっと上手に乗れるよ」
　とだけ返して少年を喜ばせると、その父に軽く目礼し踵を返した。
　自分の願い――いま心にある希望なら叶う。道を急いであの家へ帰れば。全てを分かち合える仲間と顔をあわせ、笑い声を聞けば、すぐにでも。無くしたものの代わりに得たものは、決して小さなものではなかったのだ。心の奥で一時ざわついた波は消え失せていた。
　吹く風も夏の匂いも、何もかもを受け止めながら、ジョーは帰路を急いだ。
　川辺を照らす淡い光の集まりは、流れに乗ってゆるゆる遠ざかって行く。

009ファンフィクション
灯の火（ほのか）
STORY　WRITTEN　BY　RYU
2007/8/18 (Sat)

りゅうさん、素敵なお話をいただいてありがとうございました。
　館長　茶子

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